Studio One 2導入 その後〜Switch from Protools. 痛みの末に得たもの(移植版)。

周囲でもStudio One(※以下S1と略)を導入しているクリエイターさんが増えてきて、僕もStudio Oneを仕事で使い始めて半年以上経ったので、FacebookやTwitterではちょこちょこつぶやいていた事を一度まとめてみようと思い、このエントリーを書いている次第です。

もともとProtoolsを長年使ってきて、作曲からミックスまでを行なってきた訳ですが(かれこれ5年以上)、当然使い慣れて手足の様に使ってきた道具を手放すというのは痛みを伴います。しかしながら、抜群の音質、抜群の軽さ、トラックバウンスの速さ(これはProtoolsユーザーならばお分かりになると思います!)、Melodyneの統合等など、メリットが非常に多くて、完全にS1に以降済みです。

普通ならばメリットばかりを列挙したいところなのですが、あくまで「Protoolsと比較してどうか」という観点で(僕はLogicもDPもSonerもCubaseもほとんど使ったことがないので)、一度問題点を洗い出してからメリットを考えたほうが、「なぜS1にSwitchしたのか」という事が明確になるかなと思ったので、まずはProtoolsから移行するとどんだけストレスが溜まるか(笑)を列挙してみようと思います。

追記2013-12-31

もうすっかりStudio Oneに慣れて、もはや手の延長にある道具です。ちょこちょこ仕事のラジオの編集などでProtoolsも使っているので、頭のなかで切り替えられるようになり、上記のようなストレスは今は全くありません。

いわば慣れと納得の問題です。

未だにこの記事がたくさんの方に読まれているようなので、アップデートで解決したものや、内容として古くなってしまったものに関しては追記という形で補足しております。よろしければご覧ください。

 

 

デメリット1 (※ほぼ解決!)「とにかく肥大化したソングファイルの保存が遅い!」

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多かれ少なかれ、DAWのソングファイル(Protoolsだとセッションファイル)というのは、どんどん容量がかさんで重くなるのは仕方がないというのはわかっているのですが、それにしても重いです。作曲するだけならばそれほど気にならないのですが、作業が進み、全トラックをオーディオ化して、ミックス作業のためにエフェクトプラグインをどんどん使っていくと、保存の度に数十秒〜1分近く取られる事があります。同じような作業をProtoolsでもしてきたのですが、こんなに保存に時間がかかるというのは経験したことがありませんでした。ひとつ断っておくと、S1自体の動作自体は非常に軽快で、作業がサクサクすすんでいるのに、自動保存の度に操作不能になり、再生は進み続けるというのが問題で、2分程度の曲だと、曲の途中で保存が始まると曲の最後まで行くまで何も出来ないというちょっとヒヤヒヤする感じを毎回体験する事になってしまいます。まだ保存のせいで強制終了をしたことはありませんが、今後の改善に期待したいところです。

追記2013-12-31

アップデートでかなり改善されました。Melodyneをたくさん使っている時はまだもたつく事はありますが、それでも何十秒も待たされるということはなくなりました。Thank you Presonus!!

 

デメリット2 「スコア機能がない」(※追記あり)

 

人によってはそこまで致命的ではないのですが、簡易的にメロ部分だけプリントアウトしたい時に少し手間取ります。ちょっと歌詞を当てはめたい時など、Protoolsの簡易的な譜面機能は結構重宝していたのですが、これが無くて別の譜面アプリを起動したりするのは結構面倒な作業です。

追記2013-12-31

PresonusがNotionを買収して、ひょっとしたらひょっとするかもと思いましたが、もう割り切ってSibeliusを使って清書するのに慣れようとしています。

 

 

デメリット3 「スマートツールがない」(※追記あり)

 

これはProtoolsユーザー特有の悩みだと思いますが、Protoolsにはスマートツールという非常に便利な編集機能があって、フェード・クロスフェードや編集点の追加をCubaseなどのように「ハサミツール」や「選択ツール」を切り替える事無くポインターの置く位置で機能を切り替えられるので、作業のスピードが格段に上がるのですが、Cubaseの開発者が作ったS1だけに、「ハサミツール」や「選択ツール」の切り替えを毎回強いられるのは結構面倒・・・。波形編集だけ正確に効率的にするならば確実にProtoolsを選ぶべきだと思います。ただ、音楽を作る上で波形編集の占める割合はそこまででもないかも知れませんね。結構慣れてしまうとそれほどでもないですが、普段副業でやっているラジオの編集や音響効果・MA等では未だにProtoolsで作業しています。

追記2013-12-31

おそらくCubaseのDNAを持っているせいか(開発者がCubaseの生みの親)、設計思想としてツールは切り替えて使うというのはむしろ今から変えられても既存ユーザーが混乱するだろうということで、Protoolsに似せてくれという事そのものが陳腐化した僕の勝手な要望でありました。フォルダートラックやバス作成の手軽さ、多くはないけど少なくもない便利なMIDI関連機能など、補って余りあるものがあると感じるようになりました。いわば慣れと納得の問題です(二回目)。

 

 

デメリット4 「ビデオとの同期機能が貧弱」(※追記あり)

 

マイナーアップデートで同期すべき動画のオフセットの設定等は可能になりましたが、未だ貧弱なビデオ同期機能。普通に音楽作る上ではなんら問題ないと思うのですが、僕は劇伴(ドラマや映画に合わせて音楽を作る)の仕事をたまにするので、この同期機能は非常に重要で、楽曲作りとタイムコード(映像用語)は結構切っても切れないものがあります。あとおそらくファイルフォーマットによると思うのですが、MP4ビデオとかをビデオトラックに入れると、再生開始時必ずコマ落ちします。推奨するファイルフォーマットをオフィシャルに告知していただきたいところです。

追記2013-12-31

これは自己解決しました。Switch to Studio Oneのインタビューでも答えましたが、QuicktimeのDV-NTSC(またはPAL)にすることで(Mac環境のみ検証済み)、画質は落ちますが、最初のコマ落ちはなくなりました。

 

 

デメリット5 「全部青! 波形が超見づらい!!」(※追記あり)

S1の開発元はPresonus。ハードウェアからウェブサイトまでイメージカラーは青ですよね。そのこだわりがS1にもしっかりと反映されているのですが、問題はクリップカラーに対して波形の表示が見にくい事です。

 

こんな感じ・・・。水色ならまだしも、濃紺のクリップカラーに黒の波形ではほとんど見えず・・・。特に不要なノイズ部分を切りたい時など、クリップカラーを変えたり拡大表示しないと該当部分が判別し辛いのは結構キツイですね。事故の元ですし。

追記2013-12-31

もう制作用のテンプレート機能で青を使わないようにして対応しています。ただそうすると暗い色は使えないので、適宜波形を白に反転するとかそういう機能があると良いなあと思います。一応待ってます。

 

 

・・・とまあ、細かいことを言えばキリがないのですが、主たる困った部分はこんなかんじです。

さて、次はメリットの部分です。

 

 

メリット1 「リアルタイム以上の速さで書きだし可!」(※追記あり)

 

そんなの当たり前じゃんと思うかも知れませんが、ProtoolsはInstrumentトラックのオーディオ化から、最終ミックス書きだしまですべてがリアルタイムなわけですよ!w 他のDAWを使っていた人にとってはProtoolsを使ってみて一番カルチャーショックを受ける部分だと思うのですが、ミキサールーティングを工夫して、数チャンネル同時にオーディオ化したりするなど、レコーダー的な特性をうまく使って時間を短縮していたのですが、多分に漏れずS1もいわゆる「オフラインバウンス」ができます。

しかも結構気が効いていて、MIDIトラックのMIDI情報を保持したままオーディオ化して、いつでもMIDIの状態に戻れるS1独自の機能もあり、「あぁ、このピアノのこの一音のベロシティをちょい下げしたいのにもうオーディオ化しちゃったよ〜、えっと元のMidiどれだっけ・・・」という心が折れそうな面倒くさい場面に遭遇しても2クリックでMIDIトラックに戻せるのは非常に便利です。

追記2013-12-31

Protoolsも11でオフラインバウンスに対応しました。とは言え、ステム作成やインストゥルメントのアウトの個別書き出しなど細かな機能アップデートがStudio Oneにも追加されたので、今後にさらに期待してます。

 

 

メリット2 「統合されたマスタリング機能」

 

音楽制作の工程上最後の作業となる「プリマスター」を作る作業を総じて「マスタリング」と言われる事が多いのですが、音圧調整、曲順の変更、CDへの焼き込みからDDPデータの作成、果てはSoundCloudへのデジタルリリースまで、「楽曲をリスナーに届ける」部分までが統合されているというのはかなり力強い部分。ミックスまで戻ってマスタリングをやり直したいというわがままも比較的簡単にできるのもマスタリング部分が統合されている強みですね。

 

 

メリット3 「高度なMIDIコントローラーとの連携」

 

意外と見過ごされがちですが、Midiコントローラーとの連携が非常に便利です。プラグイン毎にどのノブがどのパラメーターかを「プロジェクト単位でなくS1全体で記憶してくれる」のが大きな特徴です。上記のスクリーンショットにもある通りMaag EQ4のパラメーターとAxiom Proのノブがそれぞれ割り振られていて、一度記憶させるとプロジェクトを超えてコントロール出来るようになるので、普段使うEQのパラメーターとコントロールサーフェースを紐付けておけば、アナログミキサーを扱う感覚で直感的に操作できます。同じような事は他のDAWでも出来ますが、毎回アサインしなおしたり非常に面倒で、アサインする作業の時間の方が音を作る作業より長くなることもあるのでは?

 

 

メリット4 「Melodyneとの統合」

 

もうこれは絶対手放せない部分です。通常はMelodyneにはリアルタイムで波形を読み込む必要があるのですが、Studio Oneだとほぼ一瞬で波形の取り込み完了。ほんとにStudio Oneの機能の一部として機能している感じで使えます。コーラスなど数十トラックになった時に作業時間に雲泥の差が生まれます。そりゃ修正が必要ないならそれが理想なわけですが、このご時世修正しないことのほうが少ないという事もあるので、こればっかりはね。マイナスから0に持っていく作業というのはやっぱりテンションあがらないので、その作業時間が少しでも短く簡単になるというのは何にも代えがたい部分だと思います。

 

 

メリット5 「音質が良いのに軽い」

 

高音質とCPU負荷というのはイタチごっこなものなのですが、S1は音質が良いのに動画が非常に軽いです。デジタル音声を扱っているという点ではすべてのDAWが同じなので、よく都市伝説的に「DAWによって音が変わる」という事が言われますが、個人的にはProtools 9とStudio One 2ではかなり音質差があると思います。「良い音質か?」と言われると、差が微妙過ぎて「好みの問題」になってしまいますが、個人的にはクリアな音質だと思います。ただ、Protoolsも10になってからかなり音質がクリアになった印象があるので(非HDでも)、これに関しては何とも言えない部分かも知れません。

 

 

・・・だいたいこんなかんじです。メリットの方も細かい部分を上げ始めたらきりが無いわけですが、良くも悪くも新しいDAWであるStudio One。

ここで一番注目したいのは、Studio Oneのマイナーアップデートが比較的頻度が高く、新機能の追加やバグフィックスが結構早いということです。Protoolsの歴史は非常に長いですが、Studio Oneはここ数年で成長してきたソフトウェアの中では相当作りこまれている注目ルーキーといった立ち位置にあるDAWだと思います。聞くところによると、PresonusのStudio Oneチームは非常にフットワークが軽く、新しい機能をどんどん入れていく予定があるそうです。アナログのアウトボードをプラグインの様に使えるPipelineなど画期的な機能などもあるので、「使いながら良くしていく・成長していく」DAWだと思います。

実際にProtoolsからStudio OneにSwitchしてみて、Protools互換のショートカット設定があるとは言え、その考え方の差に慣れるまでかなりの時間を要しましたが、軽快な動作や細かな便利な機能をフル活用してすべての作業をスピーディーに行えています。じっくりと時間をかけて重箱の隅をつつくようなデリケートな作業で作品を作るような場合はProtoolsが向いているかも知れませんが、昨今時間も予算も限られるこの世の中(苦笑)、作曲家や編曲家がミックスやマスタリングなどのエンジニアリングまでやらなければならないのは最早当たり前(僕のような無名の作曲家は特に)。外部のエンジニアさんにお願いする場合などはどうしてもProtoolsがスタンダードになりますが、ミックス以降を別の人に任せずすべてを自分で担当し責任を持つ・・・という仕事ならば、非常にスピーディーにクオリティーの高い作品を作ることが出来る道具だと思います。

何事も一長一短あるのは世の常ですが、確実にStudio Oneで作るメリットはあると思います。操作性の違いなどに不安を覚える人はいるかも知れませんが、Protoolsと全然違うからこそ「音質だけでなく、出来上がる作品すら変わる」DAWだと思います。チャレンジするかしないかはあなた次第・・・と言ったところでまとめさせて頂きます。

長文を読んで頂きありがとうございました!

 

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