細かくて伝わりづらいけど、分かる人にはすごく分かる(はずの)考察と検証をしてみました。汎用のコンピューターを使って音楽を作る人には興味深いものだと思いますので、ぜひ読んで頂き、ご意見いただければと思います。
さて、表題にもあります「ハードウェアシンセらしさとは何か」を考えるきっかけは、名作シンセサイザーKorg Tritonのハードウェアとソフトウェア版の音色の比較・検証記事でした。
リンク先の検証記事内リンクにある比較音源は以下の2つです。
僕はこの2つを聴いて①がハードウェアと予想。正解しました。そして②が妙に滲んでいて良くも悪くもまとまって「和音なのに1ボイスの音っぽいな」という感想を持ちました。
アンケート方式だったので大変話題になったようです。これについて言及されているツイートで引っかかるものを見つけました(否定するものではありません)。
DACじゃなくてその後のプリアンプだと思うんだけどなぁ。DACなんて所詮ありきたりのもの使ってるし
この方がおっしゃるようにソフトウェアにあってハードウェアにある部分はここなのだと思いますしサウンドに影響を与えていることは間違いないと思うのです。
ですが、素の音であるはずのソフトウェア版の音が滲んでいて、ハードウェア版がクリアであるということに違和感を覚えました。なぜなら、ソフトウェアの音をなんらかのDAなりアンプなりを通した上でもう一度ADしてデータに戻したら、ハードウェアシンセのようにクリアになるはずだからです。もともと滲んでいる音が何かのプロセスでクリアになるというのは経験的に想像が出来ませんでした。
そこで立てた仮説はこうです。
「ハードウェアシンセは物理的にモノフォニックのボイスが独立していて、ミックスされたものがDAとアンプを通して音になっているはずだ」
↓
「ソフトウェアの音のにじみはプラグイン内のミキサーの問題ではないか」
そこで、わざと濁りやすい和音と音色のMIDIデータを用意し、そのまま再生した場合と、和音をモノフォニックになるよう分割し、全く同じ設定の、しかも最大発音数と同数のソフトウェア音源を立ち上げて鳴らして、擬似的にハードウェア音源内にあるであろうミキサーをDAW上で再現してみました。
テキストで書くと分かりにくいと思うので、動画を作成しました。
試聴する環境によってはほとんど違いがないと感じるかも知れません。ですが、大きなスピーカーやヘッドホンで聴くと間違いなく音が違う。僕は濁りが若干解消されたように感じました。何人かの方に上記動画を聴いてもらい感想をいだだきましたが、音の差はあり、よりハードウェア的な音になるとおっしゃる方もいました。
もちろん先程引用したツイートにある通り、ハードとソフトの音の違いにDAやアンプが関わっていることは間違いないと思うのですが、どうやらそれだけではないようです。同じソフトウェアであるDAW内ミキサーを通すだけでも差がでるので、「ハードウェアシンセらしさ」に関わる要素としてミキサーの違いが影響する可能性は高いと考えます。
この結果は実用的なテクニックにも応用できそうです。作業的にはかなり面倒にはなりますが、音の濁りが気になったら和音を分割してモノフォニックでソフトシンセを立ち上げそれぞれ書き出せば、よりクリアな音にできるかも知れません。ただ、その濁や音源内のエフェクトも含めて出音を気に入るかどうかによるので、あくまで気になったら使えるテクニックというだけにはなると思います。
今回はあくまで仮説を立てソフトウェア上で擬似的に検証しただけです。ハードウェアシンセのシグナルフローを実物のパーツや機材を使って再現すれば、ソフトシンセがハードウェアシンセのようになる可能性もありますが、僕はソフトウェアシンセの良さ、ソフトウェアシンセにしか出せない音もあると思っているので、今の所そこまではしないと決めました。それこそ和音や音色を精査することで濁りやにじみといったものは解消される場合もありますしね。
この記事と動画をみてご意見ご感想などあればぜひお願いします。いい音作りましょう!