作曲家という仕事柄、監督やクライアントさんに聞いてもらうためのデモをなるべく迅速に、かつちゃんと伝わるように作らなければならないのですが、時短のために様々なソフトを使います。
一時期は専業のミキシングエンジニアさんの真似事をするような実際の機材を模したプラグインエフェクトをよく買っていましたが、選択肢が多くなりすぎてむしろ仕事の判断力を落とす要因になってるような気がしていたので、なるべく使うツールを限定しようと心がけています。
そんな中、革新的な性能やコンセプトのプラグインが、何故か2018年に入ってから続々とリリースされたので、予想外の出費が続いております。嬉しい悲鳴ですね。
良い道具を作ってくれる開発者の方々を応援する意味でも、2018年ナカシマ的「買ってよかったプラグイン」を簡単にご紹介します。
Soundtheory Gullfoss
エフェクトの種類としてはフルオートダイナミックEQということなんだと思います。とはいえAttackやReleaseといった時間的な挙動を制御するようなパラメーターは一切なく、RECOVERとTAMEという微妙にわかりにくいパラメーターがメインで、それをいい感じになるようポイントを探っているとどんな音源でも大体整った印象にしてしまう魔法のようなエフェクトです。
ほんとこれをデモで試したときの衝撃はすごかったです。生き物みたいにウニョウニョと動くEQカーブの印象とは違って、出音には嘘臭さがほとんどない。iZotopeのNeutronは機械学習から導かれたアルゴリズムで複雑なパラメーターを自動で設定してくれるものですが、このGullfossは開発者いわく「we are not following machine learning trend.」とのこと。解析のために待つこともありません。
じゃあ全チャンネル使えばいいじゃないかという気分に最初はなりますが、それはそれで全部が均一に整えられてしまうと実につまらない。僕はある程度アレンジが終わった曲のマスターに挿して軽く調整するような使い方で愛用しています。あとは、微妙な癖がある音源でどうしても正解が見つからない時にとりあえずかけてみたりします。
だいたいそういう時は耳が疲れていて自分の耳が信用できない状態でもありますから、自然な感じで整えてくれるツールはとりあえずデモを提出するときなんかにとても頼りにしています。
断言します。マストバイです。
A.O.M. Sakura Dither
正直なところ、Ditherの原理はそれなりに理解していたつもりですが、今まではDAWの内部のディザリングアルゴリズムに任せていました。
もっと正直に言えば、このSakura Ditherでさえ最初使ってみた時は効果がよく分からなかったくらいDitherというのは効果が分かりづらいものなんだなと・・・。
DAWのディザーやいろんなマスタリング系リミッターに入っているDitherアルゴリズムなどと厳密に比較試聴していった結果、このSakura Ditherが16bitに書き出した時の音が自然だったので、常に使うようにしています。
個人的な感想としては、0dB付近での音のアタックの微弱な不自然さが薄まるような気がします。とにかく微妙な差です。
書き出し時の最終段に刺すだけで良く、手軽で少し良くなる(これは主観であり好みではありますが)のならば、使わないより使った方がいいなと。今回は「10クリック以内で効果が出るもの」というテーマですので、まさにあてはまるプラグインですね。今の所出動率100%です。
あまり細かいことは気にならない方にはマストバイとまでは言い切れないですけど、書き出すと妙に印象変わって、しかもその結果が気に入らないなあと思った方は試してみてはいかがでしょうか?
Softube - Weiss MM-1
これまたとんでもないものが出てきちゃいました。元になった実機であるところのWeiss DS1-MK3はこのプラグインで初めてその存在を知りましたが、100万円近くするとても高価なマスタリング用機材なのですね。
このMM-1はDS1-MK3のアルゴリズムを元にパラメーターなどを絞りつつ、Styleプリセットで挙動を選んでノブを少しいじればかなり自然にレベルを稼ぐことが出来ます。
公式の発表ではコードベースの移植であり、エミュレーションではないというのがデジタルプロセッサーのプラグイン化ならではといったところでしょうか。
このMM-1が出るまでは、Tokyo Dawn LabsのTDR Limiter 6 GEを使ってマスターの音圧調整をしていました。TDR Limiter 6 GE内のバスコンプをパラレルで使ってアタックを残しつつレベルの底上げをしながら、強い高域成分を内部ディエッサーでほんのり叩きつつ全体をリミッターで叩くという処理が一つのプラグイン内で出来るので重宝していました・・・が、そうした処理をもっと簡単操作でできてしまうのがこのMM-1なのです。プリセットを選んでノブをちょちょっと回すだけでなんだかいい感じにできてしまう。フルバージョンであるSoftube版DS1-MK3も細かくいろいろ出来てきっと良いのでしょうが、とにかくいい感じにすばやく仕上げられるツールが欲しいと思っていた僕にはまさにこれというプラグインを出してくれました。ありがとうSoftube!
Leapwing Audio DYNONE
マルチバンドコンプの中ではおそらく最強の音質と最高の負荷。クロスオーバー固定ではあるけれど、自然な動作。困ったらマスターにさしてDYNONEで調整すればそこそこいい感じになってしまうほぼ魔法。魔法なので使いすぎには注意です。
最初からパラレルでの使用を前提とした設計。リンクボタンを使って各バンドのスレッショルドなどを同時に変更できる。ある程度バランスよく叩いたら、各バンドのフェーダー(ドライ)を上げて行き、うっすら原音のアタックを追加していくことで音圧感ありつつ、コンプ感の少ない音に仕上げて行くことができます。
設定でLow LatencyかUltra Qualityを選ぶことができますが、Low Latencyでもなかなかの負荷。ミックス時はバッファーサイズを多めに取ってマスターバス専用としてつかうことが多いです。
Sound Radix POWAIR
リリースは2017年ですが、今年購入し、稼働率がとても高かったのでご紹介。
どんな音源でも指定のラウドネスに揃えてしまうオートレベラー。お世辞にも音楽的とは言えないが、定期的にやっているラジオ音源の編集やMAのナレーション処理にかなり使い倒しました。
レベラーとコンプレッサーの二段構えになっていて、主にレベラーを使うことになります。ターゲットとなるラウドネスを指定したあと、ゲインレンジでどのくらいの幅で補正するかを設定できます。背景ノイズまでゲインアップしてしまわないためにノイズフロアも設定することもできます。
音楽のミックスには不要だと思いますがポスプロ系時短ツールですね。時は金なり。ひょっとしたらインタビュー収録などをされる映像クリエイターさんとかに重宝されるかも知れません。
LiquidSonics Illusion
さらっとした印象のIR式リバーブ。アルゴリズミックリバーブではしっくりこないことが多かった短いテールのルーム系プリセットが自然で素晴らしい。依然として僕のリバーブのファーストチョイスはNimbusですが、しっくり来ない時は2つ目の選択肢として稼働中。
Hall系からPlate系まで様々なプリセットが用意されていますが、どれも共通したカラーがあり、緻密過ぎず、リアル過ぎず、荒過ぎず。とてもバランスが取れていて、使いやすいと思います。
Balance Analog Magpha EQ plugin
あえてパラメーターやカーブが見えないことで、様々なことを発見できたEQ。ハイシェルフが嫌味じゃないし、切れ味も悪くない。マスタリング用みたいですが負荷はとても軽く、ミックスにも十分使えると思います。
限りなくミニマムなGUIですが、設定によってはノブの指す方向すら見えなくすることも可能(!)。カーブが見えずリッチなUIもないからこそ、見ないことで音への客観性を保ったまま耳で作業を進めるというのは、性能や音質以上の価値があるなと思いました。
http://www.balancemastering.com/plugins/balance-analog-magpha-eq-plugin/
まとめ
いかがでしたでしょうか。まずはデモ版などで試してみて欲しいです。
本当に今年は当たり年! まだまだソフトウェアエフェクトには伸び代やブレイクスルーがあるんだなあと感動してしまいます。
もしこのブログを楽しんで頂けたら、ぜひこの記事をシェアして下さい。少しでも開発者の応援になればと思っております。
みんなで良い音作りましょう!